Meet the Artist
“ア屋” the beginning of exhibition in ayanoguchiaya at SISON GALLERy
野口アヤが手がける服のブランド「ayanogchiaya」とギャラリー「SISON GALLERy」は、いくつもの世界を持つ彼女の大きな2つの柱だ。
2017年にスタートしたSISON GALLERyでは、野口の琴線に触れたアートやクラフトの展示を開催し、2020年に立ち上げて以降、ayanoguchiayaの発表会はずっとSISON GALLERyで行ってきた。
3月に開催するayanoguchiayaの新作発表会は、ギャラリー運営をしていたからこそ叶うハイブリッド方式。新作の洋服に加え、交流の深いアーティストとのコラボレーション作品を展開するという。それはまさに、ちょっとしたフェスティバル。「ア屋」と銘打ったワクワクするこころみだ。
見たことのないものはなんでも光り輝いていた。
全てが写る真っ白い五感を思い出すような、
少し懐かしいような新鮮さ。
常に何かの発展途中の楽しさ。
そんなテーマのもとに、個性豊かで色濃い世界を持つアーティストたちがスペシャルな作品を制作している。果たしてどんな化学反応が起こるのか?
季節の移ろいを感じやすい3月、新鮮なノスタルジーを確かめにきてほしい。
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[参加アーティスト]
◾️奥村乃
書家
昨年発表したayanoguchiayaの服をにぎわした奥村さんの作品を使ったテキスタイルが記憶に新しい。野口の愛猫ベッチンとフラノを力強い筆致で描いた生地は、インパクト抜群だった。ア屋ではその生地を使った服の再販と、墨絵の特別バージョンもお目見えするという。
野口は「こんなにかっこいい墨絵で描くモチーフがE.Tだなんて!」と、大好きな映画の『E.T.』を描いた作品に一目惚れし、コラボレーションや個展の開催へとつながった。
奥村さんは現代美術家でありながら古物商でもあり、サーファーでもある。作品制作は古い大きな和紙に水墨を使ってダイナミックに絵や文字を表現するが、今回は小さめサイズの和紙に猫を描いた作品の制作を予定しているという。SISON GALLERyでの個展の経験を通じて「今後はE.T.をはじめ、ポップアイコン的な作品の幅をもっと広げるのも面白いかなと思いました」と話してくれたので、進化した奥村作品にお目にかかれるに違いない。
サーファーにして書家。古物商でもある。千葉県いすみ市在住。埼玉県生まれ。1994-99年をロサンゼルスで過ごす。2001年より都内でリサイクル業に従事したのち、2015年からコンテンポラリーアンティーク集団「畳」tatami antiquesを発足。2022年、古道具の仕入れで大量の古い和紙が出たことをきっかけに作品制作を始める。年に数回個展やグループ展を行っている。
Instagram @dai_okumura
◾️川地あや香
金工作家・菓子制作家
山形の豪雪地で、山の上の古民家を改装し「生活研究をしている」という川地さん。野菜や家具、暮らしの中で必要なものを作ることに興味を持ち、金工の制作もその一環だそう。
彼女の焼き菓子の本「おやつとスプーン」を見た野口は、本に登場する金工作品に惹かれ、山形のアトリエを訪れ、交流が始まった。「ア屋」では金属のカトラリーを発表予定。
「手仕事ながらあまり主張しすぎず、それでいて食器棚や引き出しの中にあると、つい手に取りたくなるようなものをお届けしたいと思っています」とのことなので、そのさじ加減がとても楽しみだ。
「アヤさんが暮らしで選ばれているものは丸ごとセンスがよくて、お人柄は穏やかだけど、フットワークは軽くて……。そのライフスタイルに憧れます」とも話してくれたので、きっとア野口のライフスタイルにマッチする作品を見せてくれるのではないかと妄想が巡る。
金工作家・菓子制作家(カワチ製菓)。山形県在住。スプーンやトレイなど暮らしの道具を制作し、季節によってはお菓子屋としても活動。2019年に書籍「おやつとスプーン」(パイインターナショナル)発売。2021年11月に、山の上の豪雪地の築90年の古民家を改修し家族3人で暮らし始め、HPのブログで自然の中での生活と暮らしや仕事のこと、子どものことなど日々の記録を発信している。
instagram @kawachingkawachi
voicyでも音声配信中。
◾️小菅くみ
刺繍作家
野口曰く「抜群に面白い作品を作っていて、私の作る服が似合うチャーミングさもあって、モデルもお願いしました」とのことで、ayanoguchiayaの洋服に猫や花、フルーツや鳥などを刺繍するだけでなく、モデルとしても登場予定。小菅さんも「アヤさんの作り出す作品の世界観がとても美しくて好きです。その世界を大切にしたいなと思ったので、そこに私の刺繍を施してワクワクするエッセンスを少し加えられたら嬉しいな、と考えて取り組んでいます」と話してくれた。
小菅さんの作品はシュールでキュートでカルチャーを感じるものばかり。昔から少しクスッと笑えるものが好きで、街中にあるちょっと異質なものや、看板や、その土地にある「ご自由にお取りください」の写真を撮り集めているそう。常に面白いものや、ひっかかるものを探して街を歩いている彼女ならではのセンスが溢れている。ayanoguchiayaに刺繍で一捻り効かせてくれる予感でいっぱいだ。本人の作品数点も展示販売なのでお楽しみに!
刺繍作家。人物や動物の繊細な表情までを刺繍で表現している。繊細な中にどこかクスッと笑えるような作品を生み出し、様々なイベントや個展を開催。美術作品の他、アパレルブランドとのコラボレーション、衣装、広告、メディアなど、その発表の場は、多岐にわたる。著書に「小菅くみの刺繍〜どうぶつ・たべもの・ひと〜」(文藝春秋)がある。2022年、交通広告グランプリ優秀賞アートワーク担当。サウナ通いがライフワーク。
Instagram @kumikosuge/
X @kumidesuyone
◾️高橋彩子
バッチ作家
“世界のアッチコッチで集めた民族衣装の布や端材”で作品づくりをする高橋さんは、今回ネックレスしても使えるバッチを披露してくれる。ア屋のテーマに沿って、世界の白黒の布を使うそう。
それとは別に、ayanoguchiayaのアートブックも手がける。昨年SISON GALLERyで開催した高橋さんの個展の際、メキシコと猫話で意気投合し、野口と高橋さんの距離はグッと縮まった。そして今回のコラボレーションで高橋さんがイメージするものが「フリーダ・カーロ」だと話してくれた。
「アヤさんのアトリエや棚に並ぶ小さな手仕事たちと、大きな仕事を引き寄せる胆力。フリーダの家が彼女自身を表すように、アヤさんも創作の原点が家の中にあるのでは、と思いました。『CASA DE AYA』(アヤの家)をイメージして、ちょっとした飛び出す絵本のような仕掛けでギャラリーと2軒のご自宅を繋いで、アヤさんご自身、そしてayanoguchiayaを浮かび上がらせることができたら、と考えています」。
「CASA DE AYA」は、言うなれば高橋さんのフィルターを通した野口アヤ。どんな仕掛けとともにめくるめく野口像を表現してくれるのだろうか。
バッチ作家。横浜生まれ。2004年、メキシコに渡り人形劇団を主宰する女性に師事したのち、2010年よりアッチコッチバッチを作り始める。2018年「OMOTESANDO ROCKET」にて個展開催。2020年にはDiginner Galleryと協働で写真集「Bacchi Works」刊行。2022年、金沢市民芸術村にてアーティスト・イン・レジデンス。IDÉE TOKYOにて個展。2023年にSISON GALLERyにて個展開催。
Instagram @bacchiworks_saeko
◾️つちやまり
陶芸家
実は野口は20年ほど前からつちやさんの作品のファンだそうで、コツコツ集めてきたという。定期的にSISON GALLERyで展示会を開催しては人気を博している。
「美術館よりも博物館や郷土資料館の方が好き」と話すつちやさんは、作品制作の際、自然や民俗学などからインスパイアされる事がほとんどだという。細やかな植物の絵付けが美しい作品を思うと腑に落ちる。しかし今回のコラボレーションではいつもとは一味違った作品が並ぶこととなりそうだ。ア屋のテーマに沿って特別にシックな色調の作品を制作予定だとか。いつもの華やかでみずみずしい世界とは一線を画した、大人な雰囲気のラインナップとなりそうだ。
「先ずアヤさんの作るお洋服を頭の中にイメージしながらもいつもの作品イメージから離れすぎないような雰囲気を模索しています。3月は春の始まり。気持ちが軽やかに楽しくなるようなイメージでデザインを進めています」と話してくれた。春めく季節にぴったりな、特別な作品を期待せずにはいられない。
陶芸家。神奈川県葉山町で育ち、高校の時にカナダへ留学。帰国後、京都精華大学にて陶芸を学ぶ。横須賀市秋谷に築窯。年間6-8回の個展を開催。その後長く葉山で活動し、1996年東京都文京区へ移転。「道具は使うけれどなるべく機械は使わない」ので多くは作れないが、成形された器は手の温もりが表情豊かなゆがみとなって現れている。ここ数年SISONGALLERyで毎年個展を開催している。今年は4月に開催の予定。
Instagram @potterylove
◾️長谷川有里
現代美術家
誰もが知ってるようなプロダクトや著名人、キャラクターを、あたたかみたっぷりなぬいぐるみ作品に昇華している長谷川さん。ユーモアを感じるデフォルメで、思わず笑顔になってしまう。野口も「やっぱりアメリカンなキャラクターで育ったんだな、と改めて思わせてくれたけど、皮肉が感じられるとこがたまらない」とツボにハマってすっかりファンに。
また、長谷川さんも野口も過去にデッサンの勉強をしていた経験があったことから、今回のコラボレーションでは、ギリシャ彫刻やオベリスク(デッサンの授業では切っても切り離せない存在!)など、毎日のように目にしていたモチーフを作品に落とし込む予定。
長谷川さんも「シンプルかつポイントを抑えてニセモノ感を出せたらと思っています」と話してくれたので、厳格そうな石膏像がどんな変貌を遂げるのか、乞うご期待!
現代美術家。三重県出身。決して本物にはなれない、大切にされるのはいっときだけ。そんな偽物という葬られるもの、忘れ去られるもの、捨てられる定めとしての儚い存在に焦点を当て、制作・発表を続ける。ユトレヒトをはじめとした東京、名古屋、香川など各地のギャラリーで精力的に個展を開催。ア屋開催後3月下旬からはSISONGALLERyで個展開催の予定。
Instagram @yurippe85/
◾️野口アヤ
ファッションデザイナー、シソンギャラリーディレクター。
Ayanoguchiayaの新作展示に加え、今回は山形のクラフト作家の伊東広さんのアトリエを訪ね、山葡萄のつる籠バッグを別注、中袋をayanoguchiaya の生地で野口が制作した、一点ものを展示販売。
また過去のサンプルなどをリメイクした一点物の作品的アイテムも出品する予定。
(伊東さんは、世界30ヵ国以上を放浪後、日本有数の豪雪地帯、山形県大井沢に居を構え、地元の伝統的な手仕事を継承し、暮らしと共にあるような作品を制作している。今回コラボレーションした山葡萄の籠バッグをはじめ、その他つる細工/わら細工/和かんじき など。)
東京都出身。武蔵野美術大学でファッションとアートの境界線をテーマに小池一子に学び、卒業後いくつかのメゾンのデザイナーを経て2000年に独立、夫と共にブランドを立ち上げ15年に渡り運営する。2017年、20年以上続けたデザイナー活動を一旦終了させ、そのショップであった現在築100年となる日本家屋をアートギャラリーとして改装オープン、経営とディレクションを始め現在に至る。2020年よりayanoguchiayaとして服作りも再開した。
Instagram: @___aya_noguchi_aya___ @ayanoguchiaya
取材、文:西村依莉