Meet the Artist

2024-06-12 17:10:00

SHOJI MORINAGA 盛永省治/木工作家

“Going back to the basics and improving the quality of each piece sculpture, mainly stools, bowls and vases.”

SHOJI MORINAGA

  

木という生き物に対峙する

 

鹿児島県の中央部に位置する自然豊かな日置市に、木工作家・盛永省治さんの工房はある。急カーブが続く県道沿いには樹木が生い茂り、近隣に目印となるような建物はないものの、無造作に転がる丸太が表札以上のサインとなっている。

 

盛永さんの朝は早い。

鹿児島市内の自宅を朝5時に出発して545分に工房着。メール対応などの事務処理を終え、毎朝7時に盛永さんの創作活動は始まる。VANSのスニーカーを履いた今どきの姿も、フェイスシールドを身につけると纏う空気が一変。ウッドターニング技法を用いて、木の表情を読みながら削り出していく。

 

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ウッドターニングとは、円柱状に切った水分を含んだ柔らかい生木を回転旋盤に固定し、回転させながらチェーンソーで削り出していく技法のこと。一般的に「木工」といった時に思い浮かべるような机などとは異なる、自由な曲線を作ることができるのが特徴だ。削り出した後に乾燥させることで、水分が抜けて木が歪み、それが作品の表情となる。

 

全ての工程が確かな技術と研ぎ澄まされた感性が必要なのはもちろんのこと、体力勝負ともいえるため、昼寝を含む休息を適宜挟みつつ、夜7時まで創作活動は続けられる。帰ってビールを一杯飲み、一日が終わるのだという。

 

用途がありそうでないもの

 

「休日も娘とスケートボードをするくらいで、これといった趣味がないんですよ。工房には週6で通っていて、ずっと作業しています。たくさん作っているうちに自分っぽいのができてくればいいかなと思って。あんまり無理してオリジナリとかを考えちゃうと作れなくなっちゃうので。本当はサインも彫りたくないくらい」

 

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作業の手を休めながら言葉少なに語る盛永さんのこれまでの道のりは、偶然と必然が入り混じっている。大学時代にプロダクトデザインを専攻したものの、時代がちょうど深刻な就職氷河期だったこともあり、卒業後は地元鹿児島県へ戻った。今でこそ鹿児島には自由な発想を持つ作り手が多く存在するが、当時は幕開け前夜。昔気質の木造建築の大工の元で2年間働いたという。

 

その後は、ランドスケープ・プロダクツの立ち上げメンバーであり、現在はDWLL名義で活動する川畑氏に頼み込み、見習いとして修行を開始。店舗の什器や個人宅の家具の作り方を実践の中で学んだ。

 

そして、徐々に湧いてきたのが「一から自分で作ってみたい」という気持ち。仕事時間外にアトリエを使わせてもらって、自由な制作に勤しんだ。

 

「ランドスケープ・プロダクツがアメリカの買い付けに行く際に同行させてもらって、その時に見たものから影響を受けましたね。ヴィンテージの家具屋さんでキャビネットの上にさりげなく置かれたウッドボウルだったり、オブジェだったり。用途がありそうでない、生活に溶け込むアート、木工作品みたいな領域に惹かれたんだと思います」

 

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実用家具からウッドボウルへ

 

川畑氏の元、7年間の修行期間を経て独立。オーダー家具制作等に明け暮れる傍ら、空き時間を見つけてはウッドボウルを作り始めた。

 

「今でこそ木の器を作る作家はたくさんいますが、当時はまだほとんどいなくて、海外のYouTubeを見て必要な道具を揃えたりしていました。家具だと発送するのが大変だけれど、木の器なら自分一人で発送までできるし、色々な人に見てもらえる機会が増えるかなと思ったんです」

 

その時々で手に入った木材の厚みから形を考える面白さに魅了されてウッドボウル作りに没頭していた頃、ランドスケープ・プロダクツの中原氏より、カリフォルニアの彫刻家アルマ・アレンの仕事を手伝いに行って欲しいという依頼を受ける。

 

「結果的にとても有難い経験になっていますけれど、『もう話はついているから行って欲しい』って言われて(笑)。3ヶ月間でしたが、今まで独学でやってきたことに対する答え合わせも含め、たくさんの学びがありましたね」

 

カリフォルニア修行中には、日本人が経営する雑貨店で初の個展も経験。今まで一人黙々と作ってきたものが「繊細で美しい」と評価されたことも、木工作家として進む後押しになった。

 

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スツールは実用性も備えたオブジェ

 

カリフォルニアから帰国後、大きく変わったのは丸太を仕入れるようになったこと。そして、アルマ氏と同じ機械も購入し、今や盛永さんの代名詞となっているスツール作りもスタートした。

 

「アルマのスツール作りを見ていたものの、一年を通じカラッと乾燥したカリフォルニアと湿度の高い九州では勝手が違い、トライ&エラーを繰り返しました」

 

次のステップに進めないと悩んでいた矢先、鹿児島県の工業技術センターが木材を乾燥させる大きな窯を持っているらしいという情報を入手。すぐに相談に行き、使わせてもらえるようになった。そして試作、経過観測を幾度も繰り返し、温度、時間共にベストな組み合わせに辿り着いたという。今では約2か月で完成させられるようになったという。

 

家具という実用に始まり、ウッドボウルで注目を集め、スツールで作家性をさらに開花させた盛永さん。木工作家として今後向かう先を尋ねると、その回答は「ギリ一人で発送できるやつです、かね」と至極明快。制作から発送まで自分一人で完結できるサイズ感の、実用性も備えたオブジェが今後のバロメーターになっていきそうだ。

 

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盛永省二の世界

 

木の個性を見極めて導き出されたなめらかな曲線と、唯一無二のフォルムが魅力の作品たちは、その場の空気を変えてしまう大らかな強さを秘める。極めて静的でありながら、どこか生き物の気配を感じさせるのは、木の個性を大事に、木そのものの生命活動が尊重されているからではないだろうか。

 

今回の展示では、バリエーションがさらに増えたスツールを中心に、スカルプチャー、ウッドボウルやベースなど幅広くラインナップ。世界にその名を知られるようになったウッドターナーの生み出す作品に触れ、その温度、そして鹿児島の現在地をぜひ感じて欲しい。

 

盛永省治

1976年鹿児島生まれ。家具メーカーで職人として勤務ののち、

2007年に自身の工房を始める。同時にウッドターニングを独学にて開始。

その後アメリカを代表するアーティスト、アルマ・アレンに師事。

現在はウッドターニングによる作品を主に国内外での個展や合同展を中心に作品を発表している。

 

http://www.crate-furniture.net/

文:本間裕子

写真:チダコウイチ